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東京地方裁判所 平成10年(ワ)4702号 判決 1998年6月26日

原告

芝原あさ

右訴訟代理人弁護士

三戸岡耕二

被告

蓮尾知道

蓮尾弘道

主文

一  被告蓮尾知道は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物部分を明け渡せ。

二  被告らは、原告に対し、各自、平成一〇年二月一三日から右建物部分の明渡済みまで一か月七万六〇〇〇円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、被告らの負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文第一、二項と同旨の請求

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告蓮尾知道(以下「以下被告知道」という。)に対しては、別紙物件目録記載の建物部分について所有権に基づいて明渡しを求めるとともに、被告知道に対しては不法行為に基づいて、被告蓮尾弘道(以下「被告弘道」という。)に対しては連帯保証契約に基づいて、本件賃貸借契約の解除をした日の翌日である平成一〇年二月一三日から右建物部分の明渡済みまで一か月七万六〇〇〇円の割合による賃料額相当の損害金の連帯支払を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、別紙物件目録記載の建物部分(以下「本件居室」という。」)を含む一棟の家屋を所有している。

2  原告は、平成元年一〇月八日、被告知道に対し本件居室を賃貸期間二年間の約定で賃貸し、同賃貸借は、以後更新されてきた。

3  原告は、被告知道との間で、平成七年一〇月八日、右賃貸借契約を左のとおりの約定で更新した。

賃料 一か月七万六〇〇〇円

期間 二年間

契約解除 賃借人が次の場合の一つに該当したときは、賃貸人は、催告をしない(八条)で、直ちに契約を解除することができる。

(1) 二か月分以上の賃料の支払を怠ったとき

(2) 賃料の支払をしばしば遅延し、その遅延が賃貸人と賃借人との間の信頼関係を著しく害すると認められるとき

(3) 転貸等の禁止、造作・模様替えの禁止の規定に違反したとき

(4) 長期不在により賃借権の行使を継続する意思がないと認められるとき

(5) その他契約に違反したとき

使用上の注意 賃借人は、貸室内において、危険、不潔、その他近隣の迷惑となる(一〇条)べき行為をしてはならない。

4  被告弘道は、原告に対し、右賃貸借契約更新の際に、右賃貸借契約に基づく被告知道の一切の債務を連帯保証した。

5  被告知道は、本件居室内に空き缶及び空き瓶等のゴミを放置している。

6  原告は、被告らに対し、平成一〇年二月一二日、右3の賃貸借契約の一〇条及び八条(5)の約定に基づいて、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

二  争点

被告知道による本件居室内のゴミ放置等の不整理の状況が、賃貸借契約の解除事由を構成する程度に著しいか。

第三  争点に対する判断

一  証人芝原洋子の証言及び弁論の全趣旨によれば、平成五年初めころから、被告知道の身だしなみが乱れてきたため、原告ないしその家族が口頭及び手紙で被告知道に注意してきたこと、平成七年春に、本件居室において火災報知器の検査があり、その際に、本件居室内に相当量のゴミが積み上がっていることが発覚したこと、平成七年一〇月八日の賃貸借契約更新の際には、本件居室内のゴミを撤去すること及び被告知道の身だしなみを改善することが更新の条件とされたこと、その後被告知道の身だしなみは一時改善されたものの、本件居室内のゴミの不整理の状態は悪化していったことが認められる。

また、甲第六号証及び証人芝原洋子の証言によれば、消防署から、本件居室内のゴミに火災発生の危険があるとの注意を受けていたこと、原告と被告知道との間に、平成九年一〇月三日、(1)被告は、本件居室内に在置している空き缶及び空き瓶を含むゴミを同年一一月七日までに撤去すること及び常識的な身だしなみに注意して他人に迷惑をかけないことを賃貸借契約更新の条件とすること、(2)被告が右(1)の定めた事項を遵守しないときは、被告は、原告に対し、賃貸借契約は当然に解除されて賃貸借契約が終了することとし、一週間以内に自己の費用で立ち退くとの合意が成立したことが認められる。

そして、甲第五号証及び証人芝原洋子の証言によれば、それ以降も、被告知道は、ゴミの放置状態を改善せず、原告ないしその家族から再三の注意を受けてきたにもかかわらず、二年以上にわたり、本件居室内に極めて多量のゴミをかなりの高さにまで積み上げたままにしていることが認められる。

二 以上の事実によれば、被告知道は、貸室内において危険、不潔、その他近隣の迷惑となるべき行為をしたということができ、原告との間に締結した賃貸借契約一〇条に違反したことが認められる。

確かに、信頼関係を基礎とする継続的な賃貸借契約の性質上、貸室内におけるゴミ放置状態が多少不潔であるからといって、そのことが直ちに賃貸借契約の解除事由を構成するということはできない。しかしながら、本件では、賃貸人から再三の注意を受けてきたにもかかわらず、事態を改善することなく二年以上の長期にわたって、居室内に社会常識の範囲をはるかに超える著しく多量のゴミを放置するといった非常識な行為は、衛生面で問題があるだけでなく、火災が生じるなどの危険性もあることから、原告やその家族及び近隣の住民に与える迷惑は多大なものがあるといえるのであって、このことは、賃貸借契約の解除事由を優に構成するものといわざるを得ない。

よって、原告のした本件賃貸借契約の解除は有効であるというべきである。

三  以上のとおりであるから、原告の請求は理由があるから、これを認容することとする。

(裁判官塚原朋一)

別紙物件目録<省略>

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